買掛金の管理は、会社の命運を握る重要な業務の1つです。管理ができていないと、資金繰りの悪化はもとより、会社そのものを衰退させる原因にもなりかねません。
買掛金が引き起こすトラブルには、多くの場合、しっかり管理ができていないことが原因として発生します。買掛金は必ず支払わなければならないものであり、もし支払えない状況に陥ってしまった場合、業績の問題もあるかもしれませんが、計画的な経営ができていない可能性が大いにあるのです。
どの程度、買掛金を抱えることが可能なのか?支払うことが可能なのか?を考えた上で、会社経営を行なっていきましょう。
目次
買掛金の管理とは仕入から支払いまでをマネジメントすること
買掛金の管理とは、「仕入から支払いまでの流れを管理すること」が主な業務です。
買掛金が管理できなければ、過剰な債務を負うことになってしまい、会社の資金繰りが悪化します。経理だけが管理するものでもありません。すべての部署が買掛金の管理に携わっていると考えたいところです。
会社間の取引において資金力は重要です。しかし資金は無限にあるわけではありません。会社が利益を出すためには設備投資や事業拡大などが必要です。そのためには外部の取引先に発注を行なうことになり、それは同時に買掛金が発生することとなります。
企業を成長させるためにも「資金管理」の重要性を把握していなければならないのです。
買掛金管理の5つの基本的な流れ
買掛金を管理するための流れは、次の5つとなります。
- 年間購買予算の決定
- 発注の承認と発注業務全般
- 注文した商品の受領と検品業務
- 請求書の受領と仕入先への支払い業務
- 在庫管理業務
それぞれの業務のポイントを見ていきましょう。
1.年間購買予算の決定
年間の予算が策定された際、売上予想額やコストを計算して、どれぐらいの仕入金額が必要になるかを決めます。
現在の在庫の状況も把握していないと、過剰仕入になってしまうため、予算管理だけではなく在庫管理も重要です。
2.発注の承認と発注業務全般
やみくもに発注するのではなく、仕入れる商品や材料の「質」を重視して発注を行ないます。また安定供給が可能かという点にも注目しなければなりません。
為替の影響などで安定供給ができなくなると、自社の生産や販売にも大きな影響が出てしまいます。
取引先の調査などを含めて発注を管理することが重要です。
3.注文した商品の受領と検品業務
注文した商品の受領業務とは、受領書や納品書の確認作業、納品書をもとにして受領した商品や材料などの確認作業が含まれます。
間違った商品や材料が納品されたり、破損したものが納品されている場合は返品作業なども発生します。
4.請求書の受領と仕入先への支払い業務
納品された商品の代金を支払う段階です。検品業務でチェック済みの納品書と、仕入先から送られてきた請求書を照合しつつ支払いを行ないます。
5.在庫管理業務
在庫管理では「棚卸し」という作業が発生します。コンピュータで管理している場合は、実際の商品や材料の在庫とシステム上の在庫数が合致しているかを確認します。
差異が発生している場合は、差異が発生している原因の追及と対策を取らなければなりません。また、在庫管理は次年度の購買予算の策定にも大きな影響を与えます。

ここまでの流れは、常にリンクして運用されていることが重要です。
どれか1つが完璧だったとしても、それ以外に問題があれば、全体に悪影響を及ぼしてしまう可能性があるのです。大きな会社であればあるほど、それぞれ業務が細分化されています。自分の部署のことは分かっているが、他の部署のことは知らないなんてことも。
しかしこれでは、問題が発生していても気づきにくいのです。会社が傾いてしまえば部署も何も関係ありません。全体の問題なのです。
そのため重要となってくるのが、部署を飛び越えた社内のコミュニケーションです。コミュニケーションを円滑に取ることは、買掛金管理には重要な要素なのです。

買掛金問題も同じだ。初めは小さなミスから引き起こされることが意外とある。
買掛金管理の注意点
買掛金を管理する業務の中で最も重要なのが「決算期の上方修正と下方修正」です。年間を通して同じ予算であることはほぼありません。業界の流れや日本経済の状況などで大きく変動するのが当たり前です。定期的な予算の見直しなどを行なうことで、会社全体の予算と購買予算のすり合わせを行ないましょう。
会社の売上が予算以上になっているのに、当初の購買予算ではチャンスロスを生んでしまいます。売上が予算以下の場合は過剰在庫になってしまいます。買掛金の管理には会社全体のお金の流れが大きな影響を与えているのです。
買掛金管理ができていないことで起こりうる問題に至るまでに起こること
買掛金の管理ができていないと、結果として取引先に買掛金を支払うことができなくなってしまいます。これにより最悪の場合には「倒産」という事態になってしまう可能性すらあります。
なぜ倒産してしまうのかは以下の理由が主となります。
この2つを引き起こしやすくなり、結果的に「倒産」という自体につながってしまうのです。
買掛金を支払えなくなる「債務超過」
買掛金を抱えすぎてしまい、会社の資産より多くなってしまうと「債務超過」の状態になってしまいます。
分かりやすく説明すると、取引先に支払うお金が、自分の会社にあるお金以上の金額になってしまうことです。

この段階で、取引先からの仕入れた分の商品代金、つまり買掛金が発生しています。仕入れをしたのですから支払わなければなりません。

商品が売れたら、その売り上げから仕入れた商品代金(買掛金)を支払おうと思っていたのにそれができない。
会社の資産を寄せ集めても、やはり支払うべき買掛金の金額には足りない・・・。どうしよう・・・。
これが倒産する会社で起こりえる問題の1つ「債務超過」の状態です。
買掛金の支払い遅延・支払い不能 「信用力の低下」
買掛金の支払いが遅れたり、もしくは支払えなくなった場合には会社の信用は低下します。当然ですよね。
とくに新しい会社と取引を行なう際には、相手の会社がどのような会社であるのか分からないものです。そのような時には、相手の会社の信用調査(与信調査)を行ってから取引を開始することがあります。
それほど取引において「信用」は大事なものなのです。それなのに支払いが遅れたり、支払いができないなんてことが発生してしまえば、一気に信用は落ちます。もう二度と取引ができなくなることも不思議ではありません。


それと、このようなことがないとも限りませんので、今後の取り引きは止めさせてもらいます。
このように、今まで購入していた商品や材料の仕入ができなくなってしまいます。新しい仕入先を探すことができなければ、会社によっては商売ができなくなってしまい、そのまま倒産してしまうという可能性もあるのです。
買掛金の支払い遅延や不能は、どれだけ重大なことであるのか覚えておきましょう。
買掛金が支払えない場合の資金調達方法
買掛金の管理をしっかりと行なっていたとしても、販売不振などで資金繰りが悪化するケースもあります。資金繰りが悪化すると買掛金が支払えなくなってしまったり、債務超過や信用力の低下を引き起こす可能性があります。
そのため、買掛金を支払うために「運転資金」を調達しなくてはなりません。
運転資金を調達する方法は色々ありますが、とくに有名な資金調達方法を2つ紹介したいと思います。
銀行などの金融機関から「借りる」
資金調達というと「銀行などの金融機関から借りる」と考える事業者は非常に多いです。しかし現実問題として、かなり難しいと言えます。
なぜなら、買掛金が支払えないということは、自社の財務状況は火の車であるということです。その状態で銀行に融資を申し込んでも、まず審査に通りません。なぜなら銀行側からしてみると、融資したお金が返済されない可能性が高いためです。そのため銀行からの融資を希望する場合には、経営状況が悪化する前に行動をしなければならないのです。
しかし方法がないわけでもありません。「ビジネスローン」であれば利用できる可能性が高くなります。ビジネスローンは、銀行に比べると簡易的な審査であり審査通過率が高いといった特徴があります。利率は高くなってしまいますが、手早く資金を借りるというメリットがあります。
ビジネスローンは銀行だけではなく、ノンバンクでも取り扱っています。銀行のビジネスローン審査に不安を感じるのであれば、まずはノンバンクのビジネスローンに申し込んでみるのも1つの方法でしょう。
参照 ビジネスローンと売掛債権担保融資+ファクタリングで資金調達をする方法
売掛金を担保に借りる、もしくは売掛債権を売却する
買掛金を支払えないけど、他社からの売掛金を持っているという場合は、その売掛金をベースにした次の2つの資金調達方法が利用可能です。
- 売掛債権担保融資(売掛金を担保)
- ファクタリング(売掛金を売却)
売掛債権担保融資(売掛金を担保)
売掛債権担保融資とは、売掛金を担保にして資金調達する方法です。売掛金以外にも商品在庫などを担保にすることも可能です。担保評価率によって融資可能な金額が決まります。
ABLとも呼ばれており、固定資産がない企業でも売掛金さえあれば資金調達することができる可能性が高いため、中小企業の事業者に利用されています。
注意すべき点は、もし売掛金が不渡りになった場合、融資で手に入れた金額をすべて返済しなければならない点です。融資であるため、もちろん返済は必要です。しかし不渡りの場合は即時返済を請求されてしまうため、リスクが高いという点に注意してください。
ファクタリング(売掛金を売却)
ファクタリングは売掛金を第三者に売却して資金を調達する方法です。
ここでいう第三者とは、売掛金の買取を専門に行なう「ファクタリング会社」のことです。売却時に買取手数料が発生しますが、融資と違って毎月の返済が必要ありません。売掛金の売却益をそのまま買掛金の支払いに利用できる点もメリットです。
銀行から融資を受ける場合、資金使途を伝えなければなりません。つまり借りたお金の使い道を伝えなければならないのです。その使い道以外に使用することはできません。もし違反してしまうと、全額返金を要求されます。
ファクタリングは売掛金を売却して資金を得ます。会社の持ち物を売却する行為と同じであるため、お金を借りたわけではありません。そのため資金使途は問われません。よって、買掛金の支払いに限らず、好きなように利用することができます。
さらにファクタリングの審査のハードルは、非常に低いというメリットがあります。ビジネスローンや売掛債権担保融資も審査ハードルは低いですが、申し込みをした会社の財務状況がチェックされます。ファクタリングは申込企業の財務状況よりも、売掛金が確実に存在するのかという点と、売掛先(取引先)の財務状況が重要視されます。つまり会社が赤字であったとしても申し込みをすることはできるのです。
デメリットは手数料の上限値が法律で決まっていない点です。ファクタリングの手数料は、ファクタリング会社ごとに自由に決められています。売掛金の5%~30%が一般的な相場といえます。会社ごとに手数料が異なるため、利用する際には複数社との相見積もりをおススメします。
参照 売掛金を売却できる金融サービス「ファクタリング」 融資に代わる新しい金策になる!
買掛金管理が会社の資金繰りを安定させる
買掛金の管理は会社の資金繰りを安定させるためにも必要な業務です。しかしほとんどの会社は、買掛金管理のずさんさが原因で資金繰りに苦労しています。
買掛金が支払えないと、取引先の資金繰り悪化にもつながります。結果的に自社の資金繰りの悪化が取引先全体に迷惑をかけていると自覚すべきです。管理と聞くとルールに目を向けがちですが、本来の管理とは「組織の運営を円滑にするための仕組みである」という点を忘れないようにしましょう。
買掛金管理や支払えない場合の対処法(資金調達方法)を見直し、資金繰りの改善と安定的な会社運営を行ないましょう。