売掛債権のサービサーとは、「法務省から認可を受けている売掛金を回収する民間業者」のことです。
以前までは、売掛債権の回収代行業務は弁護士しか扱えない業務でした。しかしその権限を、ある一定の条件を満たしている民間業者でも扱えるようにしたのが「サービサー法」という制度です。
自分自身で売掛金を回収できない場合には、弁護士や回収代行業者に回収を依頼した方が売掛金を回収できる確率が高くなります。
目次
売掛債権のサービサーとは債権回収代行業者のこと
売掛債権のサービサーとは、法務省の認可を受け、債権回収業務を専門的に行なえるようになった民間業者のことです。
平成10年度に「債権管理回収業に関する特別措置法」が施行されました。施行されるまでは、売掛債権の回収代行業務は「弁護士」にしか許可されていませんでした。
この「債権管理回収業に関する特別措置法」は、積極的に売掛債権を回収し、経営財源に充てることを目的に制定されました。売掛債権の回収代行とはつまり「企業の借金の取り立て」ということになるわけです。「取り立て」と聞くとテレビドラマのような「暴力的な取り立て行為」や「会社乗っ取り行為」のようなネガティブなイメージしかありませんでした。
しかし法律をつかさどる「法務省」が民間業者に厳しい条件の元で認可を与えることで、違法な取り立て行為を抑制する目的も含まれているのです。そのため、もし未回収の債権がある場合には、民間の債権回収代行業者に回収業務を依頼するのも選択肢の1つとしては考えられるようになりました。
債権管理回収業に関する特別措置法が成立したきっかけ
債権管理回収業に関する特別措置法は別名「サービサー法」とも呼ばれています。サービサー法が成立したきっかけは、現在の不況の発端ともなった昭和後期から平成初期にかけて発生した「バブル崩壊」です。
バブル崩壊以降、手形の不渡りや売掛債権の不渡りなどで多くの企業が倒産しました。それまで大手と呼ばれていた大企業までもが倒産したことも社会問題になったのです。
法務省は、大量に発生した不良債権を処理しやすくするために、それまで弁護士にしか許可されていなかった債権回収業務を民間の会社にも手伝ってもらうために成立させたのが「サービサー法」なのです。
サービサー法は平成10年に成立しました。成立当初は100社程度の債権回収会社が認可を受けましたが、2019年12月11日の時点ではその数を減らして、計73社がサービサーとして債権回収業務を行なっています。
サービサーの認可基準の重要ポイント
サービサー法によって法務省から認可を受けるためには、厳しい審査が行なわれます。特に重要な基準があります。
- 常務に従事する取締役のうちにその職務を公正かつ的確に遂行することができる知識及び経験を有する弁護士がいる
弁護士であれば誰でも債権回収業務は行なえますが、弁護士にも得手不得手はあるものです。刑事事件を得意とする弁護士もいれば、債権回収を専門的に行なっている弁護士など扱う事件などに応じて経験値が異なります。
サービサーの場合は「常務に従事する取締役」として弁護士が任命されていることが条件です。理屈上は常勤している必要はありませんが、常に回収代行会社と連絡が取れ、担当している回収代行業務のすべてを把握していれば認可を受けられます。
回収業務によっては依頼料が安く済ませられる回収業務もあります。回収業務のスペシャリストたるサービサー。法的知識や実務経験が豊富な上に、国から認可を受けた会社という点ではかなり安心できます。
簡単な回収業務であれば、実務経験などが無くても回収は可能ですが、複雑な訴訟になると、交渉力や訴訟が起こったときの対応力などが求められます。取引先も弁護士で対抗した場合には弁護士の実力次第では訴訟で負けてしまう場合もあります。
訴訟で負けると債権が回収できなくなるばかりではなく、訴訟を起こしたことなどによる損害賠償や名誉棄損で逆に訴えられるケースもあります。弁護士なら誰でもいいというわけではないことを覚えておきましょう。
サービサーの利用手順
サービサーを利用する場合の利用手順を見ていきましょう。サービサーには3つの種類があります。
- 専門企業
- 金融機関の子会社・グループ会社
- 弁護士事務所の子会社・グループ会社
どのサービサーも申込手順は一緒ですが、金融機関や弁護士事務所の子会社やグループ会社は、窓口が銀行や弁護士事務所になる場合もあります。
弁護士事務所の場合は相談料が発生しますし、銀行窓口の場合はサービサーとのやり取りがあるため、申し込むまでに時間がかかる場合があります。

基本的な手順は次の通りです。
- 問い合わせ
- 債権の種類や状況のヒアリング
- 見積もり
- 機密情報や個人情報に関する覚書の差入れ・見積の提出
- 承諾と受諾基本契約の締結
- 債権情報の提出
- 債権回収業務の実施と業務遂行状況の報告
- 受託料の清算
売掛債権が回収できなくても受託料(依頼料)は発生します。倒産などで回収不可能になってしまうと、依頼料分を損してしまう可能性もあります。
回収手数料はピンキリ
債権回収会社は非常に便利な会社ですが、依頼するためには手数料が必要となります。
手数料は回収業者や回収方法によって異なります。以下がおおよその手数料相場です。
内容証明郵便 | 1万円~5万円程度 |
---|---|
支払い督促 | 3万円~20万円程度 |
強制執行 | 5万円~20万円程度 |
民事調停・交渉 | 10万円~20万円程度 |
訴訟 | 10万円~30万円程度 |
内容証明郵便だけで相手先が支払いをしてくれればよいのですが、意外と全く反応しれくれないものです。そのような場合、訴訟にまで発展させることも可能です。回収業務として訴訟にまで発展すると、表に記載されているように10万円~30万円、場合によってはそれ以上の手数料が発生する可能性が出てきます。
売掛金の金額にもよりますが、売掛金額よりも回収するコストの方が高くなってしまうことも・・・。
あくまでも一般論ですが、売掛金総額が100万円を下回る場合には、債権回収会社を利用せずに自分で対処した方が良いという考え方もあります。自分では対処しきれない場合や、単純に売掛金を支払わない取引先に気分を害して収まりがつかない場合には、債権回収会社に依頼して毅然とした対応をすることも検討すべきでしょう。

注意すべき点は、もし回収できなかったらどうなるのか?ということを聞いておいた方が良いだろう。
サービサーは不良債権の買取りも行なっている
サービサーの中には債権回収業務の他に、不良債権の買取りサービスを行なっている所もあります。これ実は凄いことです。
不良債権とは、回収の難しい、支払期日の過ぎている売掛債権のことです。
債権の買い取りといえばファクタリングが挙げられますが、ファクタリングの場合には、確実に回収できる売掛債権しか買い取りません。つまり不良債権は買い取らないのです。
ところが債権回収代行業者の中には、回収の難しいとされる不良債権でも買取をしてくれるケースがあるのです。その場合には手数料を支払ってでも現金化することを検討した方が良いでしょう。
また最近では、サービサーがファクタリング業務を行っているケースもあります。はじめはファクタリングで申し込みをしておき、もし不渡りになるということであればサービサーの業務に切り替えるといったことができます。どちらにしても債権を持ち込む事業者にしてみれば、債権を売却することで資金調達ができることになります。

認可外のサービサーは詐欺業者の可能性も
サービサーは、法務省の認可という強力な信頼の証を持っています。しかし「認可を受けている」と偽ってサービスを展開している業者も存在します。
そもそもですが、法務省から認可を受けている業者は、法務省のページに一覧で掲載されています。
たとえば、このページに記載されていない会社で法務省認可のサービサーと名乗っている場合には利用を避けた方がよいでしょう。また、実際にこのホームページに掲載されている業者であっても、その名前を無断で利用する悪質業者も中にはいるという話も聞きます。悪質業者に捕まらないためにも、法務省ホームページに掲載されている情報と、回収代行業者のホームぺージの情報が合致しているかを最低限確認しましょう。
- 営業許可年月日
- 商号
- 代表者名
- 本店所在地住所
- 電話番号
もし違っていることを発見して、その業者から「変更になった」といわれても信じてはいけません。変更があった場合は速やかに法務省へ届け出なければいけないためです。
サービサーを検索する場合は、法務省のホームページに記載されている情報を元にして調べることをオススメします。サービサーのホームページには「当社の名前を騙った詐欺事案」や「当社の職員の名前を騙った詐欺行為」といった注意書きをしている業者もあります。
つまり、法務省の認可というのは詐欺業者にとっては喉から手が出るほど欲しいモノなのです。人の弱みにつけこんだ悪質な詐欺業者ですから、必ずサービサーに債権回収代行を依頼する際には確認を行ないましょう。
認可済み債権回収会社を選ぶべき理由
手数料の安さだけで、債権回収会社を選ぶことはさけてください。認可されていない債権回収会社は、回収業務の一部しかできません。訴訟などは認可されている債権代行業者しか行えないのです。
最近では探偵事務所が債権回収業務を行なっている場合がありますが、その探偵事務所が法務省の認可を受けていない場合、取引先が夜逃げした場合の居所調査などしかできません。訴訟などには一切関与できないのです。回収業務の一部しか行なえないのに、高額な依頼料を求められるケースもあります。
ただでさえコストがかかる債権回収業務。さらに余計なコストがかからないように注意してください。
弁護士に債権回収を依頼をすることもできる 元々は弁護士の業務だった
債権の回収代行業務は弁護士や司法書士でも取り扱っています。そもそもなのですが、元々は弁護士しか債権回収業務を許可されていませんでした。
しかし、バブル崩壊後に多くの売掛金や手形が不良債権化し、既存の弁護士だけでは債権回収業務代行に手が回らなくなってしまったのです。そこで日本政府は不良債権の効率的な処理をするため、1998年に「債権管理回収業に関する特別措置法:サービサー法」が公布され、弁護士以外の民間企業も債権回収業務を行えるようなったというわけです。
弁護士に債権回収を依頼をした場合でも、その他の民間業者と同じように依頼手数料は発生します。
2004年4月までは債権回収手数料は「弁護士法」によって上限額が定められていました。しかし弁護士法が改正されてからは、弁護士報酬の上限や下限を決めている規定がなくなったため、依頼する弁護士によって手数料が大きく異なってきます。
弁護士に回収依頼をする場合の手数料
一般的な話ですが、弁護士に何か仕事を依頼する際には、はじめに相談料が必要となります。30分5,000円~1万円など、時間によって相談料がかかるのです。弁護士事務所によっては「初回相談は無料」というところもあるため、回収コストを低く抑えたいのであれば、初回相談無料の弁護士事務所に相談してみるのもよいでしょう。
実際に依頼する場合、はじめに着手金が必要となります。いわば依頼するための契約料のようなものです。ただし、着手金は回収の成功と失敗に関わらず支払わなくてはなりません。一般的に弁護士への着手金は10万円~30万円が相場です。
債権額によって着手金の額を決めている弁護士事務所もあります。その場合の相場は次の通りです。
債権額 | 着手金の相場 |
---|---|
100万円以下 | 10万円程度または債権額の10%程度 |
100万円~500万円 | 15万円~30万円程度または債権額の8%程度 |
500万円~1,000万円 | 30万円~50万円程度または債権額の6%程度 |
1,000万円~3,000万円 | 50万円~100万円程度または債権額の4%程度 |
3,000万円以上 | 100万円以上または債権額の2~3%程度 |
債権の額が多いほど、着手金の割合が少なくなっている場合が多いです。一方で債権額が100万円以下の場合、手数料が10%を占めているため、負担が大きくなる可能性があります。
弁護士に依頼する場合、着手金以外に次のような費用が必要です。
- 成功報酬…回収額の20%~30%
- 実費…弁護士の日当、交通費、内容証明郵便料、公正証書作成費用など
債権回収を得意としている弁護士事務所の中には、最初の着手金は無料にしているところもあります。こうした弁護士事務所を選んで債権回収にかかる必要を抑えることも大切です。
注意すべきは、すべての弁護士が債権回収代行を得意にしているというわけでありません。弁護士と聞くと法律に関わることなら何でも依頼できそうに思えますが、そのようなことはないのです。もちろん法律的な手続きなどに関してはプロです。
しかし普段扱っている相談事は刑事事件や損害賠償など弁護士によって得意分野が異なることも事実です。債権回収経験が豊富な弁護士を選ぶようにしましょう。
債権回収会社の手数料が心配なら自分で内容証明を出すことも
「債権回収会社の手数料が高くなってしまうのではないか」と心配な人は「内容証明を自分で作成して送る」ことも1つの手段です。内容証明は自分で作成して送ることもできるのです。
参照 内容証明郵便での売掛金回収は有効な方法!内容証明には決まった文章形式がある
内容証明郵便にかかる費用
内容証明郵便は次の費用が必要となります。
- 基本料金 82円
- 一枚 430円 以後1枚ごとに260円
- 書留料金 430円
- 配達証明 310円
例えば文書が2枚入った定型内の配達証明付き内容証明郵便を送る場合、
82円+430円+260円+430円+310円=1,512円
がかかります。弁護士や債権回収会社に依頼するよりも格段に安いコストで済みます。ハッキリと言えることは第三者にお願いするよりもはるかに低コストで作成することができるということです。
ただしなのですが、内容証明を出す際には郵便局員のチェックが入ります。そのチェックにパスしなければ送ることができないのですが、内容証明の書き方には細かなルールが数多くあり、少しでも間違えてしまうと送れなくなってしまうのです。
ちなみに私も内容証明を1度作成したことがありますが、郵便局と事務所を3度往復した経験があります。郵便局員のチェックは1回当たり約1時間前後かかりました。正直かなり手間でした。
内容証明郵便の書き方
内容証明郵便の文面例です。
令和〇年〇月〇日 東京都新宿区北新宿〇ー〇ー〇 株式会社 A 〇〇 〇〇殿 催告書 弊社は、貴社との平成〇年〇月〇日に 締結した売買契約により、 代金〇〇万円で貴社へ商品〇〇を売り渡しました。 しかしながら、繰り返しの電話による催促に関わらず、 現在まで代金〇〇万円の支払いを受けておりません。 令和〇年〇月〇日までに、 上記〇〇万円を下記口座にて支払うよう催告いたします。 上記の期日までに支払いいただけない場合、 法的措置を取らせていただきます。 記 〇〇銀行〇〇支店 普通預金 口座番号:〇〇〇〇〇〇〇 口座名義人:〇〇 〇〇 住所:東京都港区新橋〇ー〇ー〇 株式会社 B 代表:〇〇 〇〇 印
取引先企業との間で弁済期日を決めていなかった場合は、催告書に弁済期日を明記します。既に弁済期日を決めており、その期日を過ぎているときは早急に支払いに応じるよう促します。
催告書に明記されている支払いに応じなかったときは、法的手段に訴えることも記載しておきましょう。
内容証明郵便の決まり
内容証明郵便の文章に正確な決まりはありませんが、文字数と行数が決められています。
- 横書き文書:1行あたり13文字以内、1枚40行以内、または1行あたり26文字以内、1枚20行以内
- 縦書き文書:1行あたり20文字以内、1枚26行以内
用紙サイズに指定はありませんが、郵送用、控え、郵便局用に3通同じ文書を用意します。この文書3通はサイズを揃えます。文書が2枚以上にわたる場合は、綴じ目に契印を押しましょう。
郵便局の担当職員が中の文書を確認するので、封をしないで郵便局に持っていくようにしてください。
内容証明郵便を送った後の対応
内容証明郵便を送っただけでは債権回収ができません。相手先企業からの支払いに応じると連絡があった場合は直接交渉を行ない、返済期日や返済方法、期日に遅れた場合の対応などを決めてください。
交渉内容はすべて「公正証書」にまとめておきましょう。公正証書は内容証明よりも法的拘束力が強い証拠文書です。
交渉で決めた期日に支払わないなど、公正証書の内容に反故があった場合、その段階で諦めるのか、その先に進むのかを判断することになります。諦めたらその段階で終了。進むのであれば訴訟ということになります。
債権回収会社の手数料は回収方法によって異なるが100万円以下の債権なら自分で行なう選択肢も検討すべき
売掛金の回収に慣れていない経営者にとって、債権回収会社は非常に便利な存在です。取引先にとっては売掛金の回収を委託したというだけで相当なプレッシャーを与えられます。
しかし債権回収会社に支払う手数料もあなどれません。債権回収会社の手数料は会社や回収方法によって異なりますが、最も簡単な内容証明郵便だけでもかなりの額がかかるのです。債権額が100万円以下の場合は、自分で債権回収を行った方が回収コストを低く抑えられます。
サービサーを利用して効率的に売掛債権の回収をしよう!
サービサーとは国が認めた債権回収代行業者です。もし支払期日を過ぎても回収できない売掛債権があった場合には、サービサーに連絡を取ってみるとよいでしょう。債権回収を諦めてしまえば全く利益になりませんが、もしかしたら回収することもできるかもしれません。
またサービサーの中には、国からの許可を受けていない業者も存在するという話も聞きます。そのような業者を利用しないようにするために、法務省のページで確認し、さらに「国税庁法人番号公表サイト」などを利用し、利用しようと考えているサービサーの情報を集めてみるとよいでしょう。

もっと早く動くことができれば、他の資金調達方法、たとえばファクタリングを利用することもできたわけだ。債権の回収が難しい、取引先からの支払いが遅れそう・・・と判断したら、すぐに動く必要があるだろう。